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【連載】未来の「場」のつくり方 第2回 後編


自分の感覚を信じること、自然とつながること―ソマティック的アフターコロナへのアプローチ―

藤原ちえこ(ふじわら・ちえこ)

 

カリフォルニア州公認サイコセラピスト。臨床心理士。ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー(SEP)。Art of Feminine Presence (AFP) 認定ティーチャー。新聞社勤務後、シュタイナー教育を学ぶためにイギリスに留学した後、アメリカでカウンセリングと心理学を学ぶ。さまざまなセラピーやワークに触れて自分自身を癒し、その経験を活かしてセラピーを行なう。自称癒しオタク。

著書に『本気でトラウマを解消したいあなたへ』(日貿出版社)、訳書に『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(雲母書房)等。札幌と大阪を拠点に、対面セッションとzoomによるオンラインセッションを行う。https://premamft.com/

「地球環境と経済活動の関係」は「本能と理性の関係」と同じ

風不死岳山頂より望む1月の支笏湖。例年よりはるかに雪が少なかった。
風不死岳山頂より望む1月の支笏湖。例年よりはるかに雪が少なかった。

――話は変わりますけど、今回のコロナで、自然と人とのつながりを取り戻すことが大事なのかな、と改めて思いました。

 

藤原 大事ですよね。自然とのつながりを取り戻すことはとっても大切だと思います。

 

コロナのおかげで、世界規模で良いこともたくさん起きていると、個人的には思っています。まず、生産活動が縮小されて、地球環境が改善されました。札幌は先日雪が降ったそうです。4月下旬に雪が降るのは、10年、20年前は珍しいことではなかったけれど、ここ数年は気温が高くなったせいか、ほとんど降っていませんでした。

 

――すごい。良かったです。

 

藤原 人間が経済活動をしないだけで、どんどん環境が良い方向に行ってくれるのは本当に素晴らしいと思っています。この現象って、トラウマセラピーとちょっと似ているところがあるんですよね。

私がセラピーでやっていることは、「大脳新皮質を使わせない」というものです。人間にはもともと自己調整能力や生命力が備わっているのに、思考が邪魔をするからです。セラピーで、クライアントさんをできるだけ考えさせずに、身体感覚にとどまらせることができれば、勝手にからだはものすごいスピードで良くなっていきます。

 

 「経済活動」は、身体の働きでいうと「思考」に当たるものだと思うんです。だからそれがストップすると、勝手に自然治癒力が発動されるんだなって。

地球環境は、「地球っていうからだなんだな」っていうのを今回すごく実感しました。

地球環境も人間のからだも、驚くほどの自己治癒力を持っている。大切なのは、それを妨げないこと。
地球環境も人間のからだも、驚くほどの自己治癒力を持っている。大切なのは、それを妨げないこと。

 

 ――すばらしい!感動です・・・。

 

藤原 私が大好きな藤原ひろのぶさんという環境活動家が、「パニックになっているのは人間の経済活動だけ」とnoteに書いていたんですけれども、そうだと思います。

 

そもそも今の経済は根本的に間違っていて、地球上のたった数%の人間が富の大半を独占している。経済活動が縮小されたのは、ものすごく良いことだと思います。

理性は「からだという器」が整わなければ正常には働かない

――今、世の中が変わる良いタイミングなんでしょうね。「良い切り替えのタイミング」だけれど、どうしたら良いのか。

ちなみに大脳新皮質(思考)って、「良い使い方」をすれば良いんでしょうか? 現実の中で、思考や理性をどう扱っていくかは、環境問題や経済活動を考え直すきっかけの1つになる気がしています。

 

藤原 大脳新皮質(思考)を良い風に使えるかどうかは、他の部分がどんな状態であるかに依るところが大きいですね。私は、大脳新皮質をターゲットにして働きかけても、大脳新皮質の良い使い方はできない、と思っています。からだの具合がすごく悪いときに良い考えって浮かばないでしょう? 自律神経がうまく調整されていて、呼吸が深くて、からだが柔らかくて、血の巡りが良ければ、落ち着いて正常な判断を下しやすくなります。でも「からだ」という器が整っていなければ、理性は全然うまく使えません。

 

――たしかに。からだが不調だと、不安になりやすいし、イライラもしやすいですし。

 

藤原 私が行なっているトラウマセラピー(ソマティック・エクスペリエンス)を作ったピーター・リヴァイン博士は、人間の体験を5つに分けています。

SIBAMSensation=感覚Image=イメージBehavior=動きAffect=情緒Meaning=意味)の5つです。

 

私は5つの体験の中で、「M=意味」だけが性質が違うと思っていて、セラピーでは最初にMに働きかけることはしません。

なぜなら、トラウマを受けた人というのは、考える内容がたいてい真っ暗だからです。からだにトラウマを抱えていると、たとえ良いことがあっても、「私なんて生きている価値がない。世の中全員敵だ」と思ってしまう。

そのような考えを「思考のゆがみ」ととらえて変えていく方法(認知療法)もありますが、「M(意味)を支えているからだ」が心地良い状態に変わらなければ、認知や意味を変えることはかなり難しいのです。

 

――例えば、どういったケースがあるのでしょうか?

 

藤原 最初、「私には誰も助けてくれる人はいませんでした」と言っていたクライアントが、だんだん癒されていくと、昔ずっと可愛がってくれていた近所のおばさんのことを突然思い出したりします。最初に言っていた「誰も助けてくれなかった」という考えは事実ではなかったことになりますね。

癒しが進むと、過去が丸ごと書き換わったのかというくらい違う話が出てくることがあるので、人間の思考はかなり信用ならないのです。

 

結論を言うと、大脳新皮質(理性)の良い使い方は、「大脳新皮質をあまり使わないこと」になります(笑)。

 

大きな視野で捉えれば、自分のこころとからだに向き合うことは、環境を良くすることにつながる。
大きな視野で捉えれば、自分のこころとからだに向き合うことは、環境を良くすることにつながる。

――なるほど(笑)。つまりは、自分に素直でいるということでしょうか。

 

藤原 自分の感覚に正直になるということですね。私はそれしかないと思っていて。自分の感覚を信じられない人がこんなにたくさんいるから、外からの情報に振り回されるわけで。

 

自分の感覚を信じられるようになるには、自分のからだにつながるというプロセスが不可欠です。それには自然やペットなど、五感を研ぎ澄ませてくれるものが必要です。外には出ないといけなくて、家にいては神経系がダメになっていきます。「エリート家庭の子でも、タワーマンションの高層階に住んでいると成績が低迷する」という記事を読んだことはありますか?

https://president.jp/articles/-/26118

 

――高層に住んでいると情緒が不安定になる、とかでしょうか?

 

藤原 高層マンションの高層階は窓を開けられず、空調が全部管理されていますよね。全くゆらぎのない空気の中で、五感を使わず、からだを動かしていない子供たちは、基本的な数学の概念が抜け落ちていることも多いらしいのです。

 

これは神経系的にも頷けることで、知能を働かせるには五感が絶対に必要です。手足を使ってしか、学びは起きません。だから外の空気に触れることはすごく大事なのです。土いじりとかも良いです。コロナが起きてから、「自分で食べるものは自分で育てよう」という風潮が起きていますが、とても良いと思います。私も先日、在来種のタネを取り寄せて庭に蒔いたところです。

藤原さんの愛娘。正常な発達をするためには、自然に触れて、五感を使うことが必要。
藤原さんの愛娘。正常な発達をするためには、自然に触れて、五感を使うことが必要。

 

――取材前は「バーチャルでも工夫すれば何とかなる」みたいな答えを期待していましたが(苦笑)、やっぱりムリだということですね。

 

藤原 私はそう思います。セラピストっぽいことを言えば、ストレスにさらされたときに最も大切なのは、リソース(資源)です。リソースがなければ、ストレスは絶対に解消されないので。

 

――自分を正常に保つためにできること。リソースを得ること。

 

藤原 ただしリソースって、人によって違うんですよ。私のクライアントさんは、人前に出るのが苦手な方がけっこういるのですが、先日、ある人が「会社でコロナ感染者が出て、リモートワークになった。会社に行かないのがラクで、ものすごく調子が良い」とおっしゃっていました。何がストレスになるかも、全員違いますよね。

 

――人によって「快適なことが違う」というのは、ある意味救いになる気もします。

 

 

藤原 「1日1回は陽に当たりましょう」とかは、つい言いたくなりますけどね。

 

――藤原さんご自身は、癒しのプロセスの中でご自分の感覚を信じられるようになったとき、何か変わりましたか?

 

藤原 う~ん、何だろう・・・(しばし考え込む)。自己嫌悪が減りましたね。

 

――自己嫌悪?

 

藤原 ええ。癒されたことで、自分で自分を責める回数は格段に減ったと思います。私、娘に怒鳴ったりしてしまうときもあるのですが、昔だったらそんなときは「本当に私はダメな母親」と思っていたはずです。でも今は、反省はしても、自分を心の中で罵倒することが本当になくなりました。それはすごい進歩だと思います。

 

――そうですね。うん。たしかに。

 

藤原 自己嫌悪のいちばん良くない副作用は、孤立です。自己嫌悪をするということは、自分を恥じるということ。自分を恥じたら何をするかというと、自分を隠すようになります。でも自分を隠すと、ますます物事がひどくなってしまう。

 

例えば、私が娘に怒鳴ったり手を上げてしまったりした時に、それを恥じて隠したら、今回私がやったように、学校に「助けてください」と言えません。そうすると私はますますストレスが溜まって、ますます娘に当たってしまうかもしれない。

 

――心のあり方、からだのありようは、とても大事なことですね。

 

藤原 自分の感覚を信じるのはすごく大事です。理屈じゃない感覚のほうがずっと正しい。頭はいくらでも騙されるんです。だけど感覚は騙されない。

 

感覚はささやき声で、理屈のほうが声は大きいので、感覚のささやきを聴くのは技術が要ります。でもそれをやらないと、私たちはいくらでもパンデミックに加担することになります。マスクをせずに歩いている人をバッシングしたり、人殺し呼ばわりしたり。それはコロナどころではない不健康さです。

 

――本当に、今だからこそ、自分の感覚を信じる時ですね。ただ、閉じこもっていたら、感覚は感じづらいですね。

 

藤原 1日1回、地面の上に裸足で立つだけでも違うんじゃないでしょうか。私が、大阪でオフィスとして借りている場所は田んぼの真ん前なんですよ。その場所があるから、たった3週間だけれど、正気を保てたのはあります。仕事が休みの日には、田んぼで寝っ転がって。繰り返しになりますが、自然はやっぱり大事ですね。

 

でもそうすると、「積極的に外に出よう」となります。反社会的な主張ですね(笑)。原稿が出る頃にはどんな世の中になっているか、全く予測がつかない。とても古い話になっているかもしれませんね。

 

――それでも、「自分を信じること」「自然とからだが何より大事」ということは、やはりこれからの社会のベースになる話だと思いました。ソマティックと自然との関係についても、今後、探っていけたらと思います。ありがとうございました。

 

藤原 こんな話で良かったでしょうか(笑)。自分を信じるには、自分のからだの感覚を信じること。それしかないですね。こちらこそ、ありがとうございました。

 

(終)

 

インタビュアー/半澤絹子(2020年4月 ZOOMにて)

今こそ、自分の感覚を信じるとき。
今こそ、自分の感覚を信じるとき。