【講師インタビュー第15回 今野義孝さん】 “ほんとうのつながり”は、互いの心地よさから育まれる〜「臨床動作法」から「とけあい動作法」へ〜

ソマティックワークの中でも、多種多様な手法や哲学があるタッチセラピー。この秋、10月11日(金)に、オリンピック記念青少年センターにて開催される「ソマティックフェスタ2019」の講座の1つでもある「とけあい動作法」も、タッチによって、こころとからだを統合するワークです。

 

「臨床動作法」と出会い、そして「人と人とが恵みあう」という臨床体験を元に、試行錯誤を重ねて編み出されたその過程について、開発者である公認心理師・臨床心理士の今野義孝さんに、お話を伺いました。

(写真 左:吉川延代先生、右:今野義孝先生)
(写真 左:吉川延代先生、右:今野義孝先生)

 

――今野先生には、昨年(2018年)のソマティック心理学協会第5回大会でもご登場いただきました。そもそも、どのような経緯で、こころとからだの世界に来られたのでしょうか?

 

今野 大学時代に、精神病院のアルバイトに行ったことからでしょうか。当時は学生運動が盛んで大学に行けない状態だったのです。さらに僕はADHD傾向があったので、友人とコミュニケーションをとろうにも、どうにも話が通じない。どこにも身の置きどころがなかったとき、「夜間のアルバイトをしないか?」と声をかけられました。

 

――そのアルバイトはいかがでしたか。

 

今野 最初は驚きました。初日に、閉鎖病棟の中に入った途端、数十人の患者さんたちに取り囲まれましてね。患者さんたちは、新入りに興味を持って集まって来ただけだったのですが。

最初は独特な雰囲気にとまどうこともありましたが、だんだん通うのが楽しみになってきました。行くたびに患者さんが喜んでくれて、自分の居場所ができたように感じてね。そういった経験もあり、この世界に入ったわけです。

 

――さまざまな心理療法を学ばれた末、この方法を選ばれたのは、どういった経緯があるのですか?

 

今野 私の行っている「とけあい動作法」は、臨床心理学者の成瀬悟策先生が創始した「臨床動作法」がベースになっています。臨床動作法とは、援助者の誘導で、クライアントが動作を変えることで、からだとこころが求める動きに変わっていくものです。

きっかけは、成瀬先生のデモンストレーションに遭遇したこと。それを見たときに、虜になったのです。とっても優しい声で「頑張らなくていいんですよ。そのままでいいんですよ。だんだん、あなたの手が動くね、動きたくなってるね」と声がけをして。

うっとりしましたね。暗示をかけていると、本当に身体が動きたくなってきて、自然に動けるようになっていくんです。

 

――臨床動作法などでは、脳性まひの子どもであっても、そうした誘導によって動くことができるようになるそうですね。

 

今野 ええそうです。成瀬先生は、「脳性まひの子どもたちは頑張りすぎて、身体の緊張を強めている」と。だから頑張らないで、力をゆるめて、気持ちよく動かす。そういう暗示です。

本来、動作法とはそうやって自発性を促していくものなのですが、援助者がクライアントに対して操作を加える方向になってしまったと思えた時期がありました。主体的ではなく、他動的なほうへと。

 

――具体的に言うと?

 

今野 たとえば、脳性まひの子どもさんに対して「子どもの身体をゆるめるために、泣くところまでやらなければいけない」と、限界まで追い詰めてしまう。親御さんも「泣かすまでやってください」と援護射撃をして。そうすると、結果、その子にものすごい心理的、身体的な負担を強いることになります。

他者誘導的なリラクゼーションの援助というのは、セラピストが相手を支配していることになるので、セラピストもクライアントもお互いに不幸になる。心地よさは何もない。子どもはうわーっと泣き、援助者である自分自身はすさんだ疲れを感じる。

そうすると、クライアントである子どもは怖がって、訓練に行きたくなくなります。あるとき、アスペルガーのA君が、研究室に電話をしてきたこともありました。声色を使って、「もしもし、A君のお父さんです。A君は病気なので、今日は訓練に行けません」と。そのようなことが続き、僕自身が、援助者としてやっていけない状況に追い込まれた時期がありました。

 

――今野さんご自身が葛藤した体験の中から、とけあい動作法が生まれたのですね。

 

今野 そうですね。どうにかして、心地よく援助はできないだろうかと、ずっと考えていました。そして試行錯誤していくうちに、心地よくリラックスすることでこころとからだがつながり、「その人がその人らしく」生きていくための「自尊感情」や「自発性」が育まれることがだんだん分かってきたのです。

 

――ちょっと、実際にやってもらってもいいですか?

(*ここで、肩にやさしく触れるデモンストレーションを行ってもらう)

(写真:デモンストレーション中の様子)
(写真:デモンストレーション中の様子)

今野 ピタ〜っとくっついて、ふわ〜っと離す。「ピタ〜」と「ふわ〜」。いかがですか?

 

――眠くなってきました。あくびが出そうです。

 

今野 今まではインタビューしなきゃって、仕事モードになっていたからね(笑)。でも今は、こころとからだが、「本来在りたいようなこころとからだ」に変わっていく、戻っていく、整っていく。 

――触れているとき、相手と呼吸を合わせたりはするのですか? 

 

今野 しないですね。自然とそのようになっていく。そういう手法のセラピーもあるかもしれないけれど、僕の場合は、ピタ〜、ふわ〜だけです(笑)。

 

――手でとけあうのを意識されているのですか?

 

今野 あまり意識はしません。意識をすると、「手続き」で相手を操作することにつながりますから、心地よさからはどんどん離れていってしまいます。かつての僕は、何グラムの手の重さで、何秒間触れるのが良いんだろうと、その方法を試行錯誤していたけれど、今は、「自分が関わっているという主体性からも離れてみたらどうなるんだろう?」という好奇心を持ってやっています(笑)。「とけあい」とは、人と人とのコミュニケーションをさらに研ぎ澄ましたような、在り方かもしれませんね。

 

――触れながら、今野さんは非常に自分の状態を意識していて、ご自身を整えていらっしゃるようにも見えます。

 

今野 こんな風にデモンストレーションをすると、人の目を気にしたり、格好つけたい気持ちが出てきますけど、それを捨てなきゃいけないんです。「結局、自分がちゃんと内側から整っていないと、人に心地よい支援はできないんだな」と僕自身も実感してね。それで、「心地よく触れること」をまず工夫してみようと、臨床動作法を触れることをベースにした「とけあい動作法」として書き換える作業をしていったわけです。

 

――そうなんですね。「とけあい動作法」が出来上がったのは、何年ですか?

 

今野 最初に本として著したのは1997年ですが、研究に着手したのは40歳になってからです。それで、臨床動作法を作られた成瀬先生に「こんなものをつくりました」って言ったら、「面白いね」と仰ってそれを受け止めてくださいました。成瀬先生はやっぱり偉大ですね。

 

――「とけあい動作法」のエッセンスとして大事なことがあれば、教えていただけるとうれしいです。

 

今野 “恵みあい”。「支援する」というのは、「支援される」ということで成り立つ。クライアントの心地よさを援助者である自分がいただいて、心地よさを共有し合う。だから、「もっと良くなれ」とか欲を出してはいけないということ。そうでないと、ほんとうの心地よさやつながりは、体験できません。“自分も心地よく、相手も心地よく”。“自分もやさしく、相手にもやさしく”。そういうのを追求していくと、触れているようで触れていない。触れていないようで触れている。自分が相手に触れている意識があるようなないような、身心脱落という、実際にそういう境地になります。簡単です(笑)。

 

――大切なことを教えていただいて、ありがとうございます。最後に1つ質問を。当たり前かもしれないのですが、「自分自身で、深く深くリラックスする」というのは、本来的には出来るものなのでしょうか? やっぱりセラピストがいたほうが良いですか。

 

今野 できますよ。ただ最初は、援助者が寄り添って、触れることを通して、一緒に体験していくのが良いです。ちょうど僕自身もいま、「とけあい動作法」をセルフで行う方法を考えています。今度のソマティックフェスタの講座では、ぜひそれをやりたいと思っています。

 

――「とけあい動作法」の新たな一面がまた見られるわけですね。とても楽しみです!

 

今野 そうですね。70歳を過ぎて、僕はまたどこに向かって行くんだろう(笑)。

 

 2019年6月某日 埼玉県内の今野先生のサロンにて

(インタビュアー:半澤絹子、久保隆司、編集スタッフ:吉田裕子)

 

ソマティックフェスタ2019

10月11日(金)12:50~14:40

<臨床動作法> 今野義孝さん

とけあい動作法によるセルフケア~心と身体の心地よい対話~  

ユニバーサルデザインの臨床動作法として開発された「とけあい動作法」では、優しいタッチによる心と身体の心地よい対話から、自然に「本来の自分」や「ありのままでいられる自分」が生まれてきます。また、援助者と援助を受ける人との間に、心と身体の心地よい対話を通して相互の信頼関係と互恵関係を築くことができます。


<プロフィール>

今野 義孝(こんの よしたか)


文教大学名誉教授(教育学博士)
今野心理臨床研究所所長
(元)大学院附属臨床相談研究所長
(元)社団法人埼玉犯罪被害者援助センター理事長
(元)埼玉県臨床心理士会会長


<略歴及び資格>
1948年秋田県生まれ。
東京教育大学(現在の筑波大学大学院教育学研究科博士課程中退。

専門分野は、障害児心理学、臨床心理学、健康心理学。
資格は、臨床心理士、公認心理師、学校心理士、専門行動療法士、心理リハビリテイション・スーパーバイザー、
指導健康心理士、自閉症スペクトウム支援士。


<主な著書および出版物>
・著書「障害児の発達を促す動作法」 学苑社
・著書「癒しのボディ・ワーク」 学苑社
・著書「とけあい動作法」 学苑社
・著書「懐かしさ出会い療法」学苑社
・著書「発達に障害のある子どものためのとけあい動作法」明治図書
・翻訳「自閉症とマインド・ブラインドネス」サイモン・バロン=コーエン著 長野敬,長畑正道,今野義孝 訳 青土社
・ビデオ「動作法~癒しのボディ・ワーク」第1巻,第2巻 ジェムコ出版