【講師インタビュー第16回 神宮京子さん】 からだを通した全存在でのかかわり合いから、相手とともに1つの山と谷を越える。「ダンス/ムーブメントセラピー」

リラックスしているときはのびのびと歩いたり、落ち込んでいるときは猫背になっていたり…。動きは、人のこころを如実に反映しています。

神宮京子さん
神宮京子さん

10月11日(金)に開催される「ソマティックフェスタ2019」の講座の1つ、「ダンス/ムーブメントセラピー(以下、DMT)」は、動きを通して相手のこころの深い部分を見ながら、こころのブロッキングなどを解放していくセラピーです。

 

DMTとダンスが持つ変容の力について、セラピストの神宮京子さん(写真)に、お話を伺いました。


物心つく前からダンスが好きだった

 

――今日はお会いできるのをとても楽しみにしてきました。まず「ダンスセラピー」ってどんなものかを教えていただけますか。ただ踊るだけでも、いろんなことを感じるとは思うのですが…。

 

神宮 「ダンスセラピー」の定義って難しいですよね(笑)。

学術的なことから説明すると、アメリカやヨーロッパでは、「ダンス/ムーブメントセラピー」や「ダンス/ムーブメントサイコセラピー」という心理療法の分野として確立されています。60~70年くらいの歴史がありますね。

 

1930年代のアメリカには、戦争帰還兵のような「戦争トラウマ」に陥っている人たちがいたのですが、向精神薬が現在ほど開発されていなかったので、いろいろな療法が試され始めていた時期だったそうです。

また、その前から世界のダンス業界では、ダンカンやウィグマンによって、クラシックバレエのような型のある動きから、「自由に身体を動かして、解放していく」という流れが起きていました。

 

1940年代に入ると、問題を抱えた子どもや精神疾患を抱えた人たちに対するワークとして、ダンスを使う試みが始まるようになりました。

さまざまな対象者との実験的なワークと、精神分析や動作分析、発達心理などの理論などを組み合わせて。そうして次第にダンスセラピーの方法論が確立していった、と。

ダンス/ムーブメントセラピー
(自由なからだの動きを妨げない)

――「セラピーとしてのニーズ」と「ダンスの発展」が、同時期に起きたわけですね。神宮さんもダンスがずっとお好きだったのですか。

 

神宮 はい。私もコンテンポラリーやモダンダンスをずっとやってきました。親が言うには、記憶にないくらい幼い頃からテレビの前で踊っていたらしいです。ピンクレディも全部踊れたし(笑)。

 

踊りだけではなくて、演劇をやっていた時代もあったのですが、次第に「言葉ではない部分」で表現する面白さに惹かれていき、ダンスにフォーカスするようになりました。

踊って気持ちが解放されたり、ダンスが人生に行き詰まったときの支えになったり…そういう経験はたくさんしてきたと思います。

 

――そんな中で、ダンスムーブメントセラピー(以下、DMT)にはどう出会ったのでしょう。

 

神宮 たまたま知り合った人が「DMTを勉強している」と教えてくれたんです。「そういうものが世の中にはあるんだなあ」と知って、1994年に大学院に入りました。

 

当時、ニューヨークに住んでいて、ダンスや演劇と並行して、発達に遅れがある子たちにプレイセラピーをするグループの活動にも携わるようになっていました。発達が遅れた子もいろんな形で自分の気持ちを表現していて、その子たちが「誰かにわかってもらいたい」と思っているのを感じ、支援の仕事にも携わりたいと思うようになっていたんです。

DMTと出会ったのは、さまざまな偶然の積み重ねでした。

 

解放だけではなく、心身を「統合」していく

 

――DMTとは、どういうものなのでしょう。どのような手順ですすめていくのですか? 

 

神宮 決まった方法や手順はなくて、相手に合わせてオーダーメイドでやっていきます。

たとえば病院で患者さんと即興で行うときなどは、アセスメントをしている時間がないときがあります。その場で様子を見て、「今日はちょっとサポーティブにいこうかな」などと判断してワークしていきます。

 

個人セッションの場合は事前に面接をします。DMTだけで全ての問題が解決できるわけではないので、最初の2〜3セッションは、私とクライアントとの相互作用でどういうことが起こり得るかを動きながらアセスメントをしていき、「DMTではこういうことをやっていきましょう」と合意をとった後で、本格的に進めていきます。

 

――どんな感じで踊ったり動いたりするのですか?

 

神宮 クライアントの何気ない仕草から「ある枠組み(振付)」を展開して共に動く方が良い場合もあれば、クライアントのお話をもとに「その気持ちを動きにするとどうなるでしょう?」と、こころの状態を動きに移し替えて表現を育てていく場合もあって、ほんとうにケースバイケースですね。

 

人によって「自我の強さ」や「自分で考えクリエイトしていく力」「不安に耐えられる強さ」は違います。セラピストは、ワークによってクライアントからさまざまな感情が吹き出すことを知る必要がありますね。

 

また、クライアントが「自分の内側にどれくらい入る力」を持っているか、「自分の外側にそれをどう表現できるか」ということをアセスメントすることも大事です。感情も、怒りにアクセスしやすい人もいれば、悲しさを感じやすい人もいます。

 

そして「どんな動きのレパートリーがあるか」、さらに「どんな風に対人関係を持てるか」も見ていきます。つまりは感情面と、身体面と、社会性と、認識、それらを統合していくのが目指すところ。無意識にアクセスしていくワークなので、決まった流れはありません。

だからこそ、セラピーの枠組みや構造は大事になります。

 

――音楽は使うのですか。音楽って一瞬で気分が変わるので、セラピーをするときにはかえって邪魔ではないかと。

 

神宮 音楽は、ダンスの下支えになるような使い方をしています。病院で患者さんのグループに対して行うときは、ほぼ使いますね。病状に応じて、グループのムードに合うわかりやすいリズムの音楽を使ったり。

 

個人セッションで、その人の動きのリズムやメロディのもとにワークをしているときは、その方の情緒表現をサポートするような音楽を使うこともあります。

 

多くの場合、特別な状況を除いて日本語の歌詞のあるものは使いません。グループで共有できるリズムさえあれば良かったりする。ダンスが発展していくと、「ダンスそのもののリズム」で場が動いていったりするので、音楽が要らなくなっているんですよね。

 

――奥が深いですね。ちなみにDMTにはどんな効果があるのでしょう?

 

神宮 たとえば、アロマセラピーで「気分が良くなる」といったことも「セラピー」と呼ばれますよね。しかし、それらとDMTが決定的に違うのは、気分が良くなるだけではなくて、いつも同じ状況でつまづいてしまう心のクセに気づいたり、思考の悪循環のパターンを変える方法を見出せることです。そこをやっていかないと、心理療法にはなりませんから。

 

――セラピーとして「目的」を作ると、逆に「感情を出さなきゃいけない」と、自分にプレッシャーをかけて、ちょっと構えてしまうようにも思えるのですが。

 

神宮 それこそ、「そういう自分」を見ていけるのがDMTだと思いますよ。DMTは自己解放できないパターンを見つめていくものなので。

 

ただ、からだのチャンネルが開きやすくて自己の内面に向き合うことが得意な人と、そうではない人がいたりするので、その人に応じたアプローチを相談しながら決めていきます。これは「普通のダンス」と「ダンスセラピー」との違いでもありますね。

 

 

実は、内面にあるものがただバーッと放出されることが解決になるわけではないんですよ。ダンスセラピーって、シャーマンっぽく見えて、気持ちが解放されるものだと思われるかもしれないけれど、その人の「意識」「認知」「社会生活」「対人関係」が統合されていかなければセラピーになりません。無防備に放出するほうが逆に危険です。

 

――なるほど…。

 

神宮 とくに私は病院で働いているので、「現実的に、安全な枠組みをつくりながら、解放する」というバランスがとても大事になりますね。一気にトラウマが出てしまったら失敗です。そうならないように、整えながら、時を待つ。

 

――「カタルシス系のワークが効く」と感じる方もいますよね。

 

神宮 ええ。ワーッといろんなものが賦活されていくワークもあって、それが向く人もいるとは思うんです。ただ、それが「カタルシス」であるか、という問題もある。カタルシスではなくて、感情失禁かもしれない。フラッシュバックのループが強化されてしまうことも十分起こり得ます。

 

ダンスとは、人と人とのからだの響き合い

 

――ダンスセラピーって、「踊ってなんぼ」のイメージがあったんですけど。それ以外の部分のほうが大事なんですね。

 

神宮 癒しは関係性の中で起こることなので、人と人とのからだの響き合いのほうが大切ですね。スペシャルな体験をしたときって、「この人のこの眼差しのもとで、私のこの記憶がつながったな」と感じたりするんですよ。かたちにならないダンス、微細なムーブメント、姿勢、ちょっとしたジェスチャーとかそういったものが…。

 

たとえばね、トーン、トーンという何気ないリズムと、トントントントンっていう速いリズムでは、内的な体験が全然違いますよね。ちょっとなだめすかすような、「落ち着いてきてるよね〜」みたいなリズムと、「はやく!どうにかして!」というリズムでは、全くクオリティが違う。そういうところも大事にしていきます。

 

――はい。たしかに違う感じがします。

 

神宮 クライアントの動きに伴う情緒性に、セラピストが自分自身のからだを通して共感しようとする。そんな相互作用によってこそ、こころの理解が深まって、調整された豊かな感情の表現が生まれてくるんです。

 

「ダンスとは、コミュニケーションである」と言う言葉を、マリアン・チェイスというDMTのパイオニアが遺しています。形のある振り付けを使うダンスではなく、「私とあなたの間で、どんな身体の響き合いが生まれるのか」。それこそがダンス/ムーブメントセラピーのダンスです。

 

それから、発達心理の故・ダニエル・スターンが「お母さんと赤ちゃんの身体の響き合い」を研究していて、それを「ダンス」と呼んでいたんですね。お母さんが赤ちゃんを抱っこしてて、赤ちゃんが左にちょっと動くと、お母さんがちょっとからだを右に傾けるみたいな、両者のからだの微妙なモールディング。からだがうまく、なじみあう感じ。肌レベルで共鳴し合う。これがDMTでいうところの身体的共感の源です。

 

――すばらしいですね。感動します。

 

神宮 DMTは、そういった意味の「ダンス」でもあるんですね。なので、何らかのからだの動きをしているクライアントに対して、いかにセラピストが入っていくかということがとても大事です。その人の世界を圧倒しないように、かかわっていく。

 

その人がどんな世界にいるのかなーというのを感じ取ろうとするところから、ダンスは始まります。最初はセラピストは動かずに、クライアントが動いているのを見守り続けて、だんだんとクライアントのダンスに入らせていただく、混ざらせていただく。だから全部即興です。最終的には、その人のからだの力を信じるところに行き着くのかなと思っています。

 

――その人のからだの力を、信じる…。

 

神宮 ただし、ご本人のからだの感じ方と、私の感じ方にギャップがあることもあるんですよ。「その人がそうおっしゃっているけど、私から見ると少し違うな」とか。それは私の見方が偏っている場合もあるし、患者さんの心の防衛から来るところもあるので、難しいですね。ほんとうにそこは謙虚に考えなきゃいけない。

だから自分のクセがあることを自覚しつつも、お互いにすり合わせるプロセスも大事にしながら、ときには「いや、違います。私からはこう見えましたよ」と、はっきりと対峙するときもあります。

とくにダンスは全身を使ってやりとりしていて、自己に直結している部分が非常にあるので、そこに踏み入っていいのかは大事なところですね。自分の根幹となる部分を「違う」と否定されると、クライアントさんがガクガクっと崩れ落ちて、その方の存在自体をゆるがせかねません。それは患者さんにとって大きなリスクになります。ただ一方で、それが大事なターニングポイントになるときもあります。

 

――からだを使うことは、全存在をかけたコミュニケーションだということですね。先ほど、「昔、演劇をやっていたときに『言葉じゃない』と思った」とおっしゃっていましたが、そう感じた理由は何でしょうか?

 

神宮 ねえ。どうしてなんでしょうかねえ(笑)。その答えを求めて、うん十年やり続けているかもしれない。

言葉って大事な部分ではありつつも、それがいちばん重要なのではないと思うんですよね。

今の社会は言葉で説明することを重要視するけれど、いったん言葉を置いたところでこそ、からだで感じてるものが、その人の、ほんとうの感情だったり、存在のありようが立ち現れてくるし、お互い感じられるのはあるんじゃないかなって。


たとえば、ある人がたくさんお話をしてくれるのだけれども、実際には、“その言葉とは全然違うもの”が私のからだに響いてきたりする。「この人の心の痛みって一体何だろう」って思ったりすることもあります。

でも逆に、言葉にこだわっているところはあって、「ほんとうの言葉を伝え合えるようになりたい」という思いはあるんですよね。そのためにもからだが必要で。からだを通した言葉がどう生まれ、響き合うのかということにも、興味はあります。

 

誰かと共に踊ることは、深く受容される体験となる

 

――最後に、DMTのゴールでどんなものなんでしょう。神宮さんから見て、「この人はもう大丈夫」というのはありますか? 

 

神宮 「もう大丈夫」と思っても、それがゴールとは限りません。人が成長していくことに終わりはありませんから。

 

ただ、セラピストとクライアントがひとつの山と谷を共に越えて、ある地点まで辿り着いて、クライアントが違う道を選んで離れていくーーというプロセスは、とても意味があると思いますね。具体的には、クライアントの方の選択肢が広がって、違うことを試してもらえるようになったり、退院していって、1つのゴールを共有します。

一緒に旅をして、つながれた手が離れて、ひとつの「別れ」を一緒に体験する。そういうことにはとても意味があると思います。

 

――たしかに、つらいことを一緒に体験して乗り越えた人との結びつきって違いますよね。それってすごい支えになると思います。

 

神宮 そうですね。「戦友」みたいな言い方をすることはあります。セラピストとの間だけではなくて、DMTのグループの仲間でも心がつながる体験をすることはありますし。

とくに精神科に入院して来られる患者さんは、こころの結びつきが家族以外になかったり、職場で理解を得られていないことも多いので、病気であることも含めて「自分を出せる」というのは、大きな安心感を得られると思います。

(グループでワークをすることで、受容されているという体験も得られる)
(グループでワークをすることで、受容されているという体験も得られる)

 ――得るものがほんとうにたくさんあるのですね。

 

神宮 ええ。患者さんの多くが、「こんな風に自分のことを考えたことがなかった」とか、「こんな風に人とのつながりを味わったり、その意味を噛みしめることはなかった」とおっしゃいますね。

 

このセラピーは「からだ」という観点から人をとらえるので、赤ちゃんでもお年寄りでも、どんな人に対しても行えます。動けない人に対して、セラピストが「からだの向き」でかかわろうとすることもできます。寝たきりの人にDMTを行うのであれば、ベッドサイドにあるご家族の写真を見ながら、「姿勢が似てるわね」と全身(全存在)に着目して言葉を添えるとかね。

自分の動きの感覚にアクセスしにくい人であっても、その「感じにくさ」には何らかの理由があるので、そこを一緒に見るだけでも意味があります。

 

「ダンスを選ばないあなたにとっても、ダンスセラピーは意味をもたらすのよ」と。そう思っています。

 

――ソマティックフェスタでも、神宮さんと、参加者の皆さんとの豊かなダンスが生まれそうですね。からだの響き合いを、日常の暮らしでも意識しようと思いました。ありがとうございました。

 

 

2019年8月某日 新宿の喫茶店にて 

(インタビュアー:半澤絹子、吉田裕子) 

ソマティックフェスタ2019

10月11日(金)12:50~14:40

<ダンスセラピー> 神宮京子さん

関係性の中で「イメージする身体」を探索する 

身体と身体による他者との共感的な関わりが心を育むと言われています。ダンス/ムーブメントセラピーの中核にある“ミラーリング”です。他者の身体や動きの質に同調しながら自身の身体や動きで鏡のように映し返す。その関係性の中で育まれる『イメージする身体』は何を感じ、体験し、気づくのか。探索していきます。


 <プロフィール>

神宮 京子(じんぐう きょうこ)

 

アメリカ・ダンスセラピー協会認定ダンス/ムーブメントセラピスト(訓練セラピスト)

日本ダンスセラピー協会認定ダンスセラピスト・協会理事

一般社団法人日本クリエイティブ・アーツセラピー学会理事

一般社団法人日本集団精神療法学会認定グループサイコセラピスト

精神科病院勤務

「DMTLab」主宰

 

<現在の活動>

精神科病院にて、ループおよび個人セッションを行う。

他にトレーニング・セミナー/スーパービジョン/ワークショップを提供。