身体心理療法:ソマティック・サイコセラピー①

EMDR(イーエムディーアール)

 

「EMDR(eye movement desensitization and reprocessing)」とは、眼球の動きを利用したトラウマ療法。スタンフォード大学のフランシーン・シャピロ(1948- )が開発。主に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対して用いられたが、広範囲に応用されている。セラピストがクライアントの眼球運動、ないしは両側刺激を適切に促すことにより、クライアントの脳内で不適切に処理されたトラウマ記憶の統合を早め、情報処理システムの再調整を促進する。

 

主な参考図書

『EMDR―外傷記憶を処理する心理療法』(二瓶社、2004)

『言葉がない時、沈黙の語りに耳を澄ます:EMDRによる早期トラウマの修復』(スペクトラム出版社、2018)



ソマティック・エクスペリエンシング

 

ソマティック・エクスペリエンシング®(Somatic Experiencing®; SE™)は、身体のトラウマ反応を解消する代表的なソマティック心理療法の一つ。アメリカのピーター・ラヴィーン(1942- )が創始。セラピストがクライアントにとって安全な場をつくり、身体の感覚(フェルトセンス)に意識を向け、言葉がけを行いながら、トラウマ体験による恐怖などで凍りつき、未消化になっていた身体反応をおだやかに表出させ、完了させていく。

 

主な参考図書

『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(雲母書房、2008)

『トラウマと記憶 脳・体に刻まれた過去からの回復』(春秋社、2017)



ブレインスポッティング

 

ブレインスポッティング(Brainspotting)とは、トラウマ記憶と視線とは深い関係性があるとの仮説のもと、クライアントがトラウマ記憶を思い浮かべているときに、視線がどの位置にあるかを導き出し、その1点に視点を定めることで、脳の情報処理を自動的に促し、トラウマを解消する療法。精神分析、EMDRの背景を持つアメリカのセラピスト、デイビッド・グランドが開発。セッションは主にポインター(指揮棒)を使用。独自に開発したバイオラテラル・ミュージックのCDや専用のメガネを併用する。

 

主な参考図書

『ブレインスポッティング入門』(星和書店、2017)

『ブレインスポッティングスポーツワーク』(BABジャパン、2016)



ゲシュタルト療法

 

ゲシュタルト療法(gestalt therapy)とは、自分が「今ここにいること」「今、感じていること。考えていること」を重要視しながら、感情が未完了になっている辛い出来事などをセラピーの中で再体験していく代表的なセラピー。それにより、気づきや全体性の回復を促す効果があるとされる。精神分析医、フリッツ・パールズ(1893―1970)と妻のローラによって開発された。マインドフルネスを最初に重視して手法ともいわれるが、椅子を使って、過去の自分や相手を見る「エンプティ・チェア」などさまざまなワークがある。

 

主な参考図書

『気づきのセラピー−はじめてのゲシュタルト療法』(春秋社、2009)

『記憶のゴミ箱−パールズによるパールズのゲシュタルトセラピー』(新曜社、2009)



バイオエナジェティックス

 

バイオエナジェティクス(Bioenergetics) とは、心と身体は同時に働き、性格と身体の動きが、生体エネルギー(フロイトがリビドーと表現した性エネルギーをより一般化したもの)を通して、連動していると考え、呼吸と身体動作を変えることで、心にも働きかけるソマティック心理療法の先駆けの一つ。アメリカに亡命したソマティック心理学の祖の一人、精神科医のウイルヘルム・ライヒ(1897-1957)に師事したアレクサンダー・ローエン( 1910-2008)らが開発。


ハコミ・セラピー

 

ハコミ(Hakomi)とは、アメリカ先住民ホピ族の言葉で「あなたは何者か?」という意味を持つ。その言葉が示すように、ハコミ・メソッド(Hakomi method)とは、クライアントが、「今ここにある」というマインドフルネスな状態になることで、自分が感じていることに気づき、癒しを得ていくセラピー。ロン・クルツ(1934-2011)らが、ライヒ、ローエンなどの系統のソマティック心理療法(ネオライヒアン)に、侵襲性を抑える仏教系のマインドフルネスやタオイズムの教え、フェルデンクライスなどをベースに統合。セラピストが「ラヴィング・プレゼンス」という慈愛の状態になり、クライアントが安全な場で心を開けるようになることに重きを置いている。


プロセスワーク

 

プロセスワーク(ProcessWork)とは、物事が自然な過程(プロセス)に進むように促すワーク。別名「プロセス指向心理学」ともいう。ユング派の心理学者であった、アーノルド・ミンデル(1940- )が中心になって出来上がったメソッド。人間には、「ドリームボディ」という無意識の世界があるとし、それに寄り添ってワークを行うことで、クライアント自身のすすむべき道に自然と促すワーク。個人セラピーほか、コーマワーク(昏睡者向けのワーク)、ワールドワーク(紛争解決などのワーク)など、さまざまなものがある。

 

主な参考図書

『自分さがしの瞑想−ひとりで始めるプロセスワーク』(地湧社、1997)

『うしろ向きに馬に乗る−〈プロセスワーク〉の理論と実践』(春秋社、1999)